コメント

■セレクション総評コメント/ selection comment

この度は、第11回ラブストーリー映画祭に関心を持っていただき感謝申し上げます。今回も有難いことにたくさんのエントリーをいただき、無事セレクションを終えることができましたので、感謝の気持ちと共に短くコメントしたいと思います。

・映画制作者・作家として技量に安定感のある作品がいくつか選出されました。撮影・編集機材など技術進化にめざましい昨今ではありますが、それらをうまく利用しながら、独自の理念を地道に突き進む姿は、敬意に値します。本映画祭の質におけるプレゼンスに大きく貢献していただきました。

・あらゆる可能性を排除しない当映画祭では、若い世代の実験的・チャレンジな作品を大切にしています。今回のセレクションでも多数のこうした作品がエントリーされました。粗削りではありながら、映画へ対する情熱は痛烈に感じることができます。私たちは、各々の若き日に同じような思いをもってこの世界に入ったことをいつまでも忘れずにすむ、大切な機会を得ていると思っています。また当映画祭では、そのような作品を積極的に選出して応援しております。

・今の時代だからこそ生まれた作品も今回は目立ちました。AI・ロボットの台頭、イデオロギーによる対峙など、昨今日本も直面しているこれらの問題を捉え、独自の解釈・見解をふまえたユニークな表現は目を見張るものがあります。作家のこうした表現は観客の皆様の目に触れ、大いに議論がわくことを私たちは願っております。

以上のように、今回は個性豊かな作品のエントリーが増え、審査においては喜ばしい苦労となりました。選出には、上映時間枠などの観点からも検討されており、必ずしも作品自体が見劣りしたわけではないことをご理解いただければと思います。

昨今の世界情勢や経済環境などから、映画製作におきましては大変なご苦労をなされたことと思われます。そんな中、当映画祭へ関心を寄せていただきましたことを、心から感謝申し上げます。

当映画祭は、小さな映画祭ではありますが、今年で11回目を迎え、確実に足場が固められてきていることを実感しております。これもひとえに皆様のご支援、ご尽力によるものと深く感謝しております。当方も、映画製作者様ならびに観客の皆様の情熱に負けぬよう、努力を続けてまいりたいと思います。

それでは、短くて恐縮ではありますが、4月に皆様とお会いできることを楽しみにしております。

皆様に愛と感謝を込めて

2020年2月.
第11回ラブストーリー映画祭実行委員会
委員長 聖護院美月

 

■選考通過作品へのコメント

今回、選考を通過されました各作品について短くコメントいたします。ご参照いただければ幸いです。

『ファースト・ラブ バット ワン・エンド・ラブ』
女の子が恋したときの、いつもウキウキしてしまう高揚と、すぐ不安定になってしまう繊細さが描写されていて、ぐっと引き込まれます。ラストの女の子の表情は、人を決定的に変えてしまう「初恋」の力を、観る者に思い出させてくれます。主演の小向なるさんが魅力的でした。デイシーンの画が美しかったです。

『NITRATE』
卒業制作についての会話をしている中で、女たちの気難しさ、軋轢、そして痛々しいくらいの映画愛が露わになっていきました。撮影と照明が美しかったです。セリフ回しが古きよき日本映画を彷彿とさせ、女たちのキャラクターらしさを感じることができました。

『夏の夜の花』
少年の無垢で全てを見透かすような雰囲気に引き込まれました。パパもママも大好きな少年が、二人の不和を受け入れている優しさに、切ないけれど温かい気持ちになります。演技、撮影、編集、音楽など全体的に完成度が高かったと思います。

『太宰橋』
太宰をモチーフに詩的な表現をしながらも、会話と演技には人間らしいリアリティがありました。痛さと同時に可笑しみもある作品。夜の太宰橋でSNSをしたあと、無人の闇を振り返ることで男を吹っ切ろうとしているのが分かりました。音楽が印象的で良いい余韻が残りました。

『THE STARS MY DESTINATION』
歴史上存在が不確かなものと、実在した事柄が絡み合う入念な世界観の設計は圧巻でした。制作各部署において質の高いパフォーマンスがこの世界観を下支えしたことは言うまでもありません。少女が理念や意思を受け継ぐこの物語は全ての人に一朶の希望を与える作品でした。

『PAULINE』
コミカルでありながら独特の落ち着いたテンポで進むストーリーは、次の展開が気になってしまい引き込まれました。カメラに収められたアンドロイドの記録はとても愛おしく胸にグッとくるものを感じました。

『かく恋慕』
演技のレベルが高く、夫婦の笑顔溢れる日常や、妹との微妙な距離感に引き込まれました。映らないはずの「香り」も含めて五感を丁寧に描いており、日々を大切にしたくなります。撮影と音楽が効果的で、MVを見ているような心地よさでした。

『世界が終わる前に』
イデオロギーの戦いやエロスという作家としてはリスキーな内容を取り扱っているにもかかわらず、映像芸術によってそれら全てを包み込む技法は新鮮でした。リスクを恐れない作者の意思の強さや世界観は決してエゴに陥ることなく、観る者を引き込む力があります。個性豊かな俳優も魅力的でした。

『セカンド・プロローグ~扉を開いて~』
主人公の離婚の傷と心の変化が、丁寧に描かれていました。プレゼンのシーンでは、静かな情熱が表現されていて説得力がありました。主演の原田佳奈さんが自然体で、魅力的でした。

『Sea you again』
キャラクターもストーリーも画も、すべてに魅了されました。男子高生が美女と出会い、興奮しながらも平静を装う様子、友達とのシュールなやり取り、美しい夏の光。すべてが「青春」で、思わず笑い、愛おしくなります。いつまでも浸っていたい世界観でした。

『カセットテープ』
笑えるシーンあり、感動するシーンもあり、ぐいぐい引き込まれました。それぞれのキャラクターも魅力的で、父娘の方言のやり取りには楽しむことができました。娘と父との関係は切なく、それを見守る彼は優しく、愛情に溢れた作品でした。エンドロール後は素晴らしかったです。ストーリー、演技、撮影、編集など全体的に完成度が高かったです。

『Share the Pain』
あまりにも事が当たり前に進む世界観は、その可笑しさを楽しむと同時に、現代モラルがそこへ向かっていることに怖さも感じました。未来における男女の愛はどう変化していくものなか。考えさせられる作品でした。

 

第11回ラブストーリー映画祭審査委員会
審査委員 聖護院小冬